CHANEL|ベージュを仕上げるということ

ベージュのバッグを仕上げるとき、私はいつも「色だけを見ない」ようにしています。

ベージュは、とても繊細な色です。

わずかに赤みを足せば温かくなり、黄みが強ければ軽やかに見える。反対に、少しグレーへ寄るだけで、静かで落ち着いた表情になります。

写真のバッグには、全体的な色の変化や擦れが見られました。

けれど、色褪せた部分に同じようなベージュを重ねれば、美しくなるわけではありません。

長く使われた革には、その年月だけの濃淡があります。光がよく当たってきた場所と、陰に守られてきた場所。手が触れて艶を増した部分と、擦れて表情を失った部分。

その小さな違いを一つずつ見ながら、「このバッグに戻すべき色」を探していきます。

そして、色と同じくらい大切なのが、最後の質感です。

艶を出しすぎると、革の上に一枚膜が乗ったように見えてしまう。反対に、艶を抑えすぎると、CHANELらしい華やかさが消えてしまいます。

光が革の上でどのように動くのか。

ステッチや立体感が、きちんと美しく見えているか。

手にしたとき、仕上げた色ではなく、バッグそのものが目に入るか。

少し離れて見たり、角度を変えたり、自然光の中で確かめたりしながら、何度も微調整を重ねます。

仕上げとは、最後に何かを塗って完成させるだけの工程ではありません。

職人が手を加えた痕跡を静かに引き、もともとの美しさを表へ戻していくことだと、私は思っています。

「きれいになった」よりも先に、

「やっぱり、このバッグが好き」と感じていただけるように。

それが、仕上げを担当する私が最後まで大切にしていることです。

二子玉川 美靴工房

テクニカルディレクター 保科美幸

・クレンジング

・カビ除去
・色補修
・コーティング